意見・異見

「やっての損失」と「やらない損失」

 

 「やっての後悔」と「やらない後悔」。日本人は欧米人に比べて「やらない後悔」が多いと言われている。リスクマネジメントの損失ではどうであろうか?

 リスクとは一般的には損害を被る可能性であるが、リスクマネジメントのリスクとは損害と利益の双方を生む不確実性であるという。つまり、対応次第では損失を回避したり、場合によっては利益を生むこともできるとされている。つまり、リスクは対応しなければ損害のみであるが、対応次第で利益に変えることもできるのである。

 最近注目を浴びているスコアリングモデルによる与信管理は、統計的処理によって機械的に与信判断を行う。一瞬の内に大量の件数を処理でき、しかも評価基準は統一され、客観性が高い。何よりも人件費等の経費が少なく済む。

 従来の人的与信管理は処理件数が少なく、しかも時間がかかり、経験と勘による主観が幅を利かし、人件費等経費の負担も重い。これらの比較ではスコアリングモデルが圧倒的優位にある。しかし、スコアリングモデルの精度は上場企業で80~90%、中小企業40~60%、小企業30~40%でしかなく(出所:尾木研三「スコアリングモデルの基礎知識」)、人的与信管理の精度が圧倒的に高いと言われている。

 与信取引をした会社が倒産し損失を被った場合と、取引を拒否したために利益を得ることが出来なかった場合、どちらを「良し」とするであろうか?

 取引上優位の立場にあって、取引先数も多く、取引先を選ぶことのできる大企業は、取引の拒否は損害発生のリスクを回避したと考え、得られるべき利益を失ったとは思わない。むしろ取引をして損害を被ることの方がはるかに重大な問題である。つまり「やらない」方が「やる」より「良し」との結論になる。こういう会社にはスコアリングモデルの導入も可能である。

  一方、大多数の取引上劣位にある中小企業は、取引先数が少なく、取引先をえり好みする余裕はない。よって一社一社を真剣に、経験と勘をフル動員して、与信判断・与信管理をしなければならない。取引の実施によって利益を得る可能性と損害を被る可能性が存在する。しかし、取引をしない場合は利益を得る可能性はゼロである上に、得られるべき利益を失う可能性がある。仮に取引先が倒産して損害を被ったとしても、その失敗を今後の経営に役立て、将来の利益に結びつけることもできるのである。よって「やる」方が「やらない」より「良し」との結論になる。こういう会社には人的与信管理が望ましいと言える。

2018/3/26 高市幸男

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