意見・異見

テキスト情報の評価方法

2019/8/6 高市幸男

   有価証券報告書の分析において、決算書等数字で表された定量情報については、過去より極めて多くの分析手法が開発、実施されてきた。一方、数字で表せない定性情報(テキスト情報)については、近年その重要性が認識されていることに相まって、様々な分析手法が試行されている。

1.特定ワードの検索

特定のワードを指定し、その検索によって、対象企業の状況を把握する。例えば、「減収」、「衰退」などのワードが検索されれば、業績は苦境にあり、「増収」や「成長」などのワードが多く検索されれば、好況と判断する。ものである。

しかし、この分析方法は、ワードを指定する時、企業が使用するワードをすべて網羅できるか? 企業が使用するワードの意味が、それぞれ皆同じか? 指定ワードに続く述語によって全く逆の意味になる場合、例えば「減収から脱却」「衰退ではない」「増収から一転」「成長が止まる」など、意味を逆転させるこれら述語も指定ワードに含めた検索を行っているか? という疑問がある。

2.過去との変化率、他社との相違率

 過去と現在の文書、または当社と他社の文書を比較し、変化・相違している比率によって、会社の取り組み姿勢を評価するものである。企業が真剣に経営し、文書を作成しているのであれば、経済情勢の変化が大きい昨今、過去と全く同じ文書であることは考えられない。また、各企業の置かれている環境、経営内容は千差万別であるため、他社と同じ文書になるとは考えられない。に基づく。

しかし、過去と同じ文書、他社と同じ文書であっても、それが抽象的、一般的なものであるなら、経済環境や経営状態が多少変化または違っていても、文書を変更する必要がないことがある。よって同じ文書だから、真剣に経営・対応していない、または公開していないと評価するには短絡的である。

経営上対応していても、昨今の情報開示の量的拡大から、事務作業が膨大になり、そのままにしているというケースも見られる。

3.文字数

   文書の文字数によって、企業の取り組み姿勢を評価するものである。基本的に真剣に経営している企業の文書は文字数が多く、文字数の多い文書を開示する企業の業績は良い(良くなる)。リスク情報の開示では文字数が少ない方がリスクの発生が少ない。との研究が見られる。

しかし、文字数は、その文書を作成する作文者の能力または目的意識によって、如何様にも変える事ができるものであり、作文者がこの文字数によって評価される実態を知った段階で、分析データとしての信頼度は大きく減退するものと見られる。

4、文書の難易度

  文章の難易度は文章の総字数に対するひらがなの割合、1文の平均述語数によって評価される。有価証券報告書の文書情報は経営実態の説明や自己評価であり、その読者は企業や金融機関、投資家など企業経営に関する知識は深いため、専門用語が多く使用され、難易度が高くなるものと見られている。難易度の低い文書は、十分に経営実態を説明できておらず、情報開示・自己診断は不十分であると見られている。

「事業等のリスク」の開示では、企業規模が大きく、直面しているリスクが大きく、財務の複雑性の大きい企業ほど、文章の難易度が高くなる。反面、上場してから長くなるほど文章の難易度が低くなるとの研究がある。

  しかし、文書作成者の知識レベル、文章作成能力・癖によって、難易度が変わり、意識的に難易度を下げることもでき、分析データとしての信頼性は乏しいものと見られる。

 

   以上、有価証券報告書の記述文書(定性データ)は、文書作成者の知識レベルや文章の癖、取り組み姿勢、繁忙状況、恣意性、怠慢などによって、如何様にもなるものであり、前述4項目によって企業の経営実態を評価するには、信頼性に乏しいと言わざるを得ない。

 以上

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