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何故?中小企業の情報開示に関する研究が少ないのか!

 

 与信管理の3大業務の1つである信用調査は、与信者(債権者)が、与信先(債務者や融資先など)の情報を収集し、リスクを発見・評価・対応することである。一方、与信先(受信者)に立場を変えると、如何に与信者から信用を得て、取引の成立および有利な取引・決済(返済)条件を得るかが重要となる。与信者から信用を得る方法としては企業情報の開示が極めて有効かつ重要な施策となる。

 会社法は全ての株式会社に、金融商品取引法と証券取引所規則は上場企業に対して情報開示を義務付けている。よって上場企業は有価証券報告書や適時開示などで膨大な量の情報を開示している。一方、中小企業は会社法によって貸借対照表の要旨を官報または日刊紙で公告しなければならない。しかし、実際公告している企業は全体の1%未満でしかない。何故なら、官報の使い勝手の悪さ、決算書の要約のみという情報量の少なさから、開示者・情報利用者の双方がその価値を認めていないからである。よって中小企業に対する法的義務による情報開示は皆無に等しく、任意開示に任されているのが実態である。

 情報開示の研究については、効果や政策、あり方、実態の分析など極めて膨大な数のものがある。しかし、それらの殆どは、我が国全企業の0.1%しか占めない上場企業を対象とする。一方、99.9%を占める中小企業についての著書および論文は、筆者が調べた限り、15個しか見いだせなかった。それも単なるアンケートや、銀行への情報開示を含んでおり、中小企業の情報開示を理論および方法、効果について純粋に研究したものはほんの数点でしかなかった。

 中小企業の情報開示に関する研究が少ない理由としては、3つが考えられる。

①中小企業の情報を必要としない

②中小企業の財務情報を入手できない(財務情報の信頼性が乏しい)

③株主・投資家保護の必要性がない

 

①については、あまりにも無知で反論するのも虚しいのだが、言わざるをえない。

取引先の選定や取引開始・継続取引の意思決定、企業間信用、信用取引、企業倒産、企業犯罪などから企業情報の必要性は言うまでもない。経済取引が現金取引だけであったなら、現在の世界的な経済発展・拡大はありえず、信用取引が果たした貢献には極めて大きいものがある。信用取引を支えるのは取引相手の信用であり、その信用は情報の開示によって形成されているのである。

②については、研究者の研究材料としか考えない、極めて偏った意見である。我が国全企業の99.9%を占める中小企業を研究せず、楽にデータが入手できる上場企業のみを研究するのは、安直な怠慢と言わざるを得ない。更に、僅か0.1%の研究でありながら、さも企業全体が分かったかのように発表する傲慢さは、許せるものではない。

③については、情報開示を、株主・投資家保護の目的としか考えない、極めて狭い意見である。企業情報を必要としているのは株主・投資家だけではない。取引先(特に情報弱者の中小企業)、一般個人(BtoCでの)、従業員、就職希望者、投資希望者など、全ての関係者が情報を必要としているのである。情報開示は社会的要請であり、インフラとなるものである。

また、冒頭に説明したように、開示者の立場に立った、自社の信用管理としての情報開示の研究も必要なのはいうまでもない。経営政策として、積極的に効果を求める情報開示の研究が求められているにも関わらず、その研究が皆無に等しいのは寂しい限りである。

 

2018/6/14 高市幸男

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