意見・異見

 自己資本利益率と株主資本利益率

 「自己資本利益率は、以前、株主資本利益率と呼ばれていた」「自己資本利益率の別名は、株主資本利益率である」との説明が見られように、自己資本利益率と株主資本利益率は同一に扱われている。ここで改めて両者に違いはあるのか、ないのかを検討してみる。

 自己資本利益率(profit rate of net worth)は、自己資本に対する年間利益の割合をいう。対して、株主資本利益率(Rate of Return On Equity:ROE)は、株主資本に対する当期利益(税引後利益)の割合をいう。機関投資家の増加によって「投下した資本に対し、企業がどれだけの利潤を上げられるのか」という点を重視したことが、背景となって、最も重要視される財務指標となった。

 分母の「自己資本」と「株主資本」との違いは、「その他の包括利益累計額」の有無であり、同勘定のある企業は殆どないため、同じ扱いになっても止むを得ないと言える。しかし、経営者の立場から見た「自己資本」と株主の立場から見た「株主資本」は全く違うものであり、数字が同じであるからと言っても、同じに扱えるものではない。

 自己資本利益率が低い場合、分子の利益が少ない時は、売上の増加や収益性の向上、経費の削減など、経営施策上の問題となる。しかし、分母の自己資本が大きすぎるから、それを少なくするとは先ず考えない。なぜなら、自己資本は財務の安全性を示し、その大きさは企業の安定度、企業の信用度を表すことから、単純に少なくすればいいというものではないからである。

 一方、株主資本利益率が低い場合、株主は、投下した資本が思うほどの利益を生んでいないことから、経営者の責任を問うことになる。また、過剰資本の疑いが持たれることにもなることから、経営者は利益を上げることより、株主資本を減らすことによって株主資本利益率を上げるという短絡的な施策に走ることもある。逆に、株主資本利益率が高い場合は、配当等利益処分に矛先が向かう。

 分子の利益について考えると、自己資本利益率は、自己資本がどれほど利益を生んだのかを計算するため、利益に対して課税される税金を除いた「税引前利益」を適用するのが適当であると考えられる。対して、株主資本利益率の場合は、税金を差し引いた後の利益が株主に帰属するため、「税引後利益」を適用するのが適当である。

 以上、両者には明らかな違いがあり、使用目的に応じて使い分ける必要があるのにも関わらず、冒頭に説明したように、区別されず、同一の如く扱われているのが現実なのである。

2018/5/14 高市幸男

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