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道路貨物運送業のリスク top6

 

 「開示された事業等のリスクに価値はあるか?」では、その内容及び情報価値に疑問があると結論した。しかし、本稿では性善説に基づいて、開示されたリスクが正しいものと仮定して、集計・分析を試みる。なぜなら、各企業が自由に選択・開示できる状況下にあって、掲げられるリスクに、何らかの傾向があるのか、ないのかを調べるのも、意味があると思われるからである。

 集計対象は、道路貨物運送業 2017年度有価証券報告書 38社(日本通運、日本郵政、ヤマトHD、日立物流、セイノーHD、以下省略)とした。

 

上記企業が掲げたリスクのtop6は次の通り。

 1位 法規制     回答社数35社 回答率92.1

 2位 自然災害         29社       76.3

 2位 燃料価格の高騰             29社       76.3

 4位 重大な交通事故             28社       73.7

 5位 顧客・個人情報漏えい   24社       63.2

 6位 借入金利の上昇      17社    44.7

 6位 人材確保、育成      17社    44.7

 

 道路貨物運送業は、事業面では貨物自動車運送事業法、貨物利用運送事業法、倉庫業法、食品衛生法、通関業法、関税法、港湾運送事業法、航空運送代理店業、棄物の処理及び清掃に関する法律。環境面では自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車Nox・PM法)、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例。道路交通面では道路交通法、道路法。労働 面では労働基準法、自動車運転者の労働時間帯等の改善の基準、労働者派遣法。など極めて多くの法規制があり、しかも、法に触れると、営業停止や免許取り消しなどの処分もあるため、法規制が第一位にあるのは納得できる。

 しかし、行き過ぎた規制は行政不況を招く危険性や、利用者を無視した歪な業界を生む恐れがある。自由な競争下に於ける健全な業界の発展を考えると、第一のリスクが法規制というのは不健全な、寂しい状態にあると言わざるを得ない。自然災害は当たり前の一般的な回答であり、無意味な第2位の回答と言える。燃料価格の高騰は業界特有のリスクであり、過去倒産増を招いたこともあり、納得の第2位である。第4位の重大な交通事故は本来1位になってもいいリスクである。第5位以下のリスクは企業全般にも言えることであり、敢えて開示する必要があるのか、疑問が持たれる。

 以上、事業等のリスク開示は、個別企業のリスク把握に全く価値がない場合もあるが、業界等で集計した場合、その業界が置かれている状況を端的に示すことがあることを教示している。

2018/4/3 高市幸男

 

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