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継続企業の前提に関する注記(GC注記)の問題点と対応

 

上場企業は有価証券報告書に「継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象または状況」を記載しなければならない。しかし、各企業の対応をみると、該当する事象または状況が明らかにあるにも関わらず、全く記載していない企業、少しだけ記載している企業、特に重要な疑義とは思えないのに記載する企業など、全くバラバラである。その原因と対応を検討してみたい。

 

1.GC注記の記載判断

 第一の問題は、GC注記の記載判断が各企業に任されていることにある。

有価証券報告書にはリスク情報の開示として、「GC注記」と「事業等のリスク」の記載が義務付けられている。「事業等のリスク」は、その企業が潜在的に抱えるリスク、つまりリスクの発生が予想されるシーズを記載している。第三者は、自然災害などの一般的なリスクの発生は予想できても、損害度や、その会社が持つ特有のリスクは予測できない。よって「事業等のリスク」の記載は、当該企業の自主判断に任せざるを得ない。

 一方、GC注記は、大幅赤字や資本欠損など、リスクが顕在化した事象を記載している。よって第三者にも把握できるものが多い(全てではない)ため、当該企業の判断に任せず、第三者が判断すべきである。

GC注記に該当する事項でも解決のための対応策が出来ている場合は、「GC注記」に記載せず、「事業等のリスク」に記載することも可とされている。しかし、「解決のための対応策」はその会社の希望的観測や願望もあり、実行の不確実性を考えるなら、これも当該企業の判断に任せず、第三者に委ねるべきである。そして、その第三者とは、真っ先に決算書を見ることができ、業務柄決算・財務内容の分析・評価に長けた監査法人が担当すべきであると思われる。

 

2.GC注記の記載基準

第二の問題は、GC注記の記載理由が抽象的で、明確な基準がないことにある。

日本公認会計士協会が示すGC注記の記載理由によると、「著しい」や「継続的」「重要な」「超過」「困難性」などの抽象的な表現が多々見られる。「売上高の著しい減少」とは、一体いくら(何%)からを言うのか、「継続的な営業損失」とは何年続いた状態をいうのか、また利益と損失を繰り返している場合はどう判断するのか、「重要な営業損失」の重要とは一体いくら(何%)からを言うのか、「超過」「困難性」についても、その基準がはなはだ不明確である。これが各社バラバラの対応を生む原因になっていることが明白である。

 業種や業態、各企業の特徴があり、単純にその基準を作ることはできない。しかし、一応の目安を作ることは可能であり、その運用に於いて各企業の状態を合理的に判断することにすれば、記載基準の作成は可能と思われる。

 

3.監査法人のあり方

第三の問題は、監査法人が果たすべき機能・役割を果たしていないことである。

監査法人も業務・組織を維持・運営しなければならず、クライアントの獲得、売上・利益の確保が必要なのは言うまでもない、このためクライアントの機嫌を損なうことを恐れ、監査業務に忖度が入るのもやむを得ないと思われる。つまり、諸悪の根源は監査対象企業から監査法人が収益を得ていることにある。

監査法人が本来の機能・役割を果たすには、監査対象企業と監査法人の金銭的取引を切り離し、利益相反の関係を解消する必要がある。そのためには、監査業務を専業とする組織を設立し、全ての上場企業から監査料を徴収する。監査実施組織は登録されている公認会計士に対して、公平に監査業務を与え、収入を配分すれば、監査対象企業からの圧力を受けることなく、公正な監査が実施できるもの考えられる。

 

4.研究者の考え方

 第四の問題は、GC注記の記載を企業・経営者の本質を無視した、法的規制のみに頼っていることにある。

GC注記の記載が同一企業の決算期において、また企業間においてもバラバラにある。この野放図な状態を見るに、情報開示の目的及びその価値について疑問を呈示せざるを得ない。制度および記載上の基準、運用上の問題もあるが、企業及び経営者の本質的な部分を理解せずして、奇麗ごと、大義名分、法的規則だけでは解決できない問題が存在する。

GC注記、リスク情報の記載を人に例えるなら、自分の欠点や悪い所を文章で一般に公開する事である。つまり、自分と付き合う人全てに、貧乏である事や、借金がある事、病気を抱えている事、試験の成績が悪かった事、逮捕された事があるなど、欠点や悪いと思われる内容を全て公開する事と言える。よって、人に対して、法的に開示を義務付けることは到底できるものではない。

一方、会社は法人である事から法律によって果たすべき義務が規定され、特に上場企業には多数の利害関係者がいる事から、GC注記、リスク情報の記載が法的に義務付けられているのである。しかし、如何に規則があろうとも、どのリスクを選び、記載するか、しないかはその企業に任せられている。その企業が抱える最も重大なリスクは、本能的に投資家やライバル企業、取引先、取引銀行などに知られたくないものである。よって、自社の身勝手な解釈と理由・目的によって、GC注記、リスク情報を記載しない企業があっても、何ら不思議はない。

GC注記、リスク開示の研究者及び規則等の作成者は、この本質を無視することなく、本当に効果のある、公正・公平な制度になるような規則を作らなければならない。

 

2018/6/26 高市幸男

 

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